トリプトファン
こんなお悩み・健康効果に
- 不安やうつ症状の緩和
- 不眠症の改善
- PMS(月経前症候群)の症状緩和
- アンチエイジング効果
- その他の効果
トリプトファンとは
トリプトファンは、たんぱく質を構成する必須アミノ酸のひとつ。エネルギーを産生したり筋肉や皮膚、ホルモンや酵素などの成分となったりするのがたんぱく質です。たんぱく質は20種類のアミノ酸で構成されていますが、全てのアミノ酸が揃わないとたんぱく質を合成できません。これらのアミノ酸は、体内で合成できない9種類の「必須アミノ酸」と、体内で糖質や脂質から合成できる11種類の「非必須アミノ酸」に分類されます。[※1]
トリプトファンは必須アミノ酸に分類されるため、体内では作ることができず食べ物から摂取しなければいけません。一方、非必須アミノ酸は、体内で糖質や脂質から作り出されます。
トリプトファンは肝臓や腎臓で分解されエネルギー源となるほか、ビタミンB群の一種で体内のさまざまな代謝に関わる「ナイアシン」を合成します。さらに脳に運搬され、ドパミンやノルアドレナリンをコントロールし精神を安定させる「セロトニン」や、睡眠や覚醒リズムなどを調整している「メラトニン」など、神経伝達に重要な物質の合成にも関わっています。[※2][※3][※4]
期待される効果・作用
不安やうつ症状の緩和
トリプトファンは不安やうつ症状の緩和などが期待される成分です。
精神を安定させるのに役立つ物質であるセロトニンは、トリプトファンによってつくり出されます。このセロトニンは幸福ホルモンとも呼ばれ、ドパミンやノルアドレナリンなど、ほかの神経伝達物質の情報をコントロールすることで精神状態を安定させる作用を示すことが知られています。[※2]
トリプトファンを摂取することでセロトニンの産生が増し、不安感やうつ症状が軽減される可能性があるといえるでしょう。
不眠症の改善
トリプトファンは、脳の松果体で合成されるホルモンであるメラトニンの生成に関わることで、不眠症の改善に役立つと考えられています。
メラトニンは、体内時計に働きかけることにより自然な入眠を促すことから「睡眠ホルモン」とも呼ばれており、メラトニンが分泌されると眠気が出現するといわれています。トリプトファンから合成されたセロトニンによってつくられるメラトニンは、体内時計のリセットが起こるタイミング、つまり起床時に日光を浴びることで分泌が止まり、その15~16時間後再び体内時計からの指令により分泌されるのです。[※5]
トリプトファンを適切に摂取することは、セロトニンとメラトニンの分泌を促すことで体内時計のリズムを整え、自然な眠気を誘うことにつながるといえるでしょう。
PMS(月経前症候群)の症状緩和
トリプトファンは、月経前に起こる精神的、身体的症状「PMS」の症状緩和に役立つとされている成分です。
PMSは女性ホルモンのバランスが変動することで生じる症状であると考えられていますが、原因ははっきりとは分かっていません。しかし、ホルモンだけが原因ではなくさまざまな要因が絡み合い生じる症状であるといわれ、そのひとつと考えられているのがセロトニンなのです。PMSの精神的な症状に対して、脳内のセロトニンを維持する薬剤を使用し治療する場合もあります。[※6]
PMSのなかでも特に、極端な不安感や抑うつ、情緒不安定などが強く出てしまい、日常生活に支障をきたしてしまうものが「月経前不快気分障害(PMDD)」です[※7]。このPMDDの方にトリプトファンを投与したところ、症状が改善されたという試験結果も報告されています。[※8]
セロトニンの前駆物質であるトリプトファンを補うことは、PMSやPMDDの症状緩和に役立つといえるのではないでしょうか。
アンチエイジング効果
セロトニンを経てトリプトファンから生成されるメラトニンには、強力な抗酸化作用があります。[※9]そのためメラトニンは体内で過剰に産生された活性酸素を除去するなどの作用を示し、細胞の老化を防ぐことで若々しい肌を保つことに役立つと考えられます。
また、若々しい体づくりのためには質の良い睡眠も重要です。「睡眠ホルモン」とも呼ばれるメラトニンは、加齢とともに減少するといわれています[※10]。トリプトファンを適切に摂取することで、良質な睡眠にもつなげることができるといえるでしょう。
その他の効果
トリプトファンには以下のような効果も期待されています[※11]。
- 鎮静作用
- 集中力や記憶力を高める作用
こんな方におすすめ
トリプトファンは睡眠とも深い関係がある成分です。
慢性的な睡眠不足は心身の不調や生活習慣病などの原因となるため、現在睡眠に関する悩みを抱えている方にとっては重要な成分であるといえます。
また、何らかのストレスを抱えている方や、PMSの症状のある方、加齢に負けない体づくりのための対策を講じたいと考えている方にも役立つ可能性があるといえるでしょう。
摂取目安量・上限目安量
厚生労働省は、アミノ酸の摂取目安量などについて定めていませんが、参考としてたんぱく質必要量に対する必須アミノ酸の必要量を示しています。
この資料によると、トリプトファンの1日当たり必要量は、成人で体重1㎏当たり4.0mgとされています。[※12]
考えられるリスク・
副作用
トリプトファンの大量摂取には、健康被害のリスクがあるとされています。
フランス食品衛生安全庁(AFSSA)によると、トリプトファンを3,000mg~6,000mg/日を短期間摂取することで、無気力や吐き気、頭痛などの症状が現れることが報告されています。[※13]
通常の食事からの過剰摂取はないと考えられるものの、サプリメントや医薬品などから摂取している場合には注意が必要です。特にモノアミン酸化酵素阻害剤(MAOIs)、セロトニン再取り込み阻害剤(SRIs)、ベンゾジアゼピン、フェノチアジンなど抗不安薬や睡眠薬、抗精神病薬などを内服している方は、トリプトファンをサプリメントで摂取するのは避けたほうが良いでしょう。[※13]
また、妊娠中や授乳中の方も安全性が確立されていないため、トリプトファンのサプリメントは避けるようにしましょう。
トリプトファンを含む食べ物
アミノ酸であるトリプトファンは、たんぱく質が豊富な食べ物に含まれていますが、主に以下のような食べ物に多く含まれています。[※14]
- 肉類……鶏むね肉、牛レバー、豚レバー、豚ヒレ、鶏ささみなど
- 魚類……かずのこ、しらす干し、まぐろ、かつおなど
- 豆類……大豆(乾)、きなこ、油揚げ、納豆、湯葉、おからなど
- 種実類……ごま、カシューナッツ、アーモンド、落花生など
- その他……チーズ、牛乳、卵など
トリプトファンは体内で合成できないアミノ酸であることから、毎日の食事でしっかりと補う必要があります。サプリメントからも摂取はできますが、栄養バランスの良い食事を心掛けることで十分摂取できると考えられます。
なお、トリプトファンと同様に、セロトニンの原料となる栄養成分には、ビタミンB6やマグネシウム、ナイアシンなどがあります。[※15]これらの栄養素を多く含む食べ物は、主に肉類や魚類、豆類、種実類などです。
発見・研究の歴史
1901年、トリプトファンはイギリスの生化学者ホプキンスらにより、牛乳のたんぱく質カゼインから発見されました。ホプキンスはビタミンの発見者でもあり、1929年ノーベル生理学・医学賞を受賞しています[※16]
現在では、精神の安定や睡眠に関わる作用を中心に、さまざまなトリプトファンの機能について研究が進められています。
トリプトファンに関する研究情報
【1】トリプトファンを多く含むシリアルの摂取は、加齢による睡眠・覚醒サイクルの異常を改善する時間栄養学的方法として有効である可能性があります
【2】月経前不快感障害の患者37名にL-トリプトファン6g/日を投与する試験を行ったところ、月経周期の黄体期後期にセロトニン合成を増加させることが、月経前不快気分障害の患者の治療につながることが示唆されました
【3】軽度の睡眠障害を持つ15名を対象に、トリプトファンを1日あたり1g摂取させたところ睡眠潜時が改善されたことから、トリプトファンに睡眠導入時間改善効果が期待されています。
成分
10秒解説
トリプトファンは、さまざまな食品に含まれる、必須アミノ酸のひとつ。体内ではビタミンB群の一種であるナイアシン、脳内では神経伝達物質セロトニンやメラトニンの原料となります。トリプトファンは入眠効果や鎮静作用のほか、月経前症候群(PMS)の症状緩和などに関わる成分であると考えられています。