鉄分
こんなお悩み・健康効果に
- 鉄欠乏性貧血の予防・改善
- 疲労回復効果
- 思考力の改善
- 心不全の症状改善
- むずむず足症候群の症状改善
鉄分とは
私たちの体内に3gから5gほどあると言われている鉄分。鉄分は、全身に酸素を運ぶという重要な役割を持つミネラルの一つです。[※1]
主に、赤血球のヘモグロビンや筋肉中のミオグロビンに存在する鉄分は「機能鉄」と呼ばれ、酸素の運搬などの役割を担っています。
一方、フェリチンと結合し肝臓や脾臓、骨髄などに蓄えられている鉄分や、運搬途中の血液中にある鉄分(血清鉄)は「貯蔵鉄」と呼ばれています。
食事からの鉄分の摂取が不足したり、出血により鉄分が失われてしまったりすると「鉄欠乏性貧血」を引き起こします。
ヘム鉄と非ヘム鉄
食品に含まれる鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があります。
肉や魚などの動物性食品に多く含まれているのがヘム鉄です。ヘム鉄はたんぱく質と結合しており、そのままの形で小腸から吸収されるため、非ヘム鉄よりも吸収率が高くなります。[※2]
一方、非ヘム鉄は穀類や野菜類などに多く含まれている鉄分です。無機鉄である非ヘム鉄は、腸管から吸収される際に食物繊維やタンニンなどから吸収阻害を受けやすいため、吸収率が低くなってしまいます。[※3]
期待される効果・作用
鉄欠乏性貧血の予防・改善
貧血は原因によりいくつかの種類がありますが、もっとも多いのが「鉄欠乏性貧血」です。
鉄分を十分に摂取することで、鉄欠乏性貧血の予防・改善につながります。[※1]
疲労回復効果
鉄分が不足すると、酸素の供給が十分にできず筋肉中のミオグロビンが減ってしまうため、疲労感が出現することがあります。[※1]
鉄分を補給することで、この疲労感を軽減する可能性があります。
思考力の改善
全身に酸素を運搬する働きを担う鉄が不足すると、脳への酸素供給も不足し、思考力の低下を招くことが考えられます。
そのため、鉄分の適量摂取は思考力や学習能力、記憶力の改善につながると言えるでしょう。[※4]
心不全の症状改善
心不全患者は鉄欠乏を合併することが多いと言われていますが、鉄剤の投与など鉄の補給により症状が改善されることが報告されています。[※5]
むずむず足症候群の症状改善
鉄分の補給により、むずむず足症候群の症状が改善される場合があります。
むずむず足症候群の発症メカニズムははっきりとは解明されていませんが、鉄分の不足により、神経伝達物質である「ドパミン」がうまく合成されない ことも原因の一つと考えられています。
こんな方におすすめ
鉄分は人体に必要なミネラルの一つであり、年代に限らず適量摂取が必要な栄養素です。
特に、女性においては月経や妊娠、授乳中には鉄分の需要が増えることから、不足しがちな成分であると言われています。[※7]
また、激しいトレーニングを行うアスリートなどでは汗などからの鉄分の喪失が増え、鉄欠乏の状態を起こしやすい状態にあるとされています。[※8]
以上のことなどを踏まえると、以下のような方に積極的な摂取がおすすめであると言えるでしょう。
- 貧血気味の方
- 月経のある女性
- 妊娠・授乳中の女性
- スポーツをする方
- 記憶力や学習能力を発揮したい成長期の子供
摂取目安量・上限目安量
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、鉄分の摂取推奨量は、18歳以上の男性で7.0~7.5mg、同じく女性(月経あり)で10.5~11.0mg、月経なしで6.0~6.5mgとなっています。[※7]
さらに妊娠初期の方、授乳中の方は該当する年齢の推奨量にプラス2.5mg、妊娠中期・後期の方は同じくプラス9.5mgを付加し、必要な鉄分の量を算出します。
また、鉄の食事摂取基準には、過剰摂取を考慮し「耐容上限量」が設けられています。耐容上限量は18歳以上の男性で50mg、同じく女性で40mgとなっています。
考えられるリスク・
副作用
日本人では不足しがちな栄養素の一つであると言われているのが鉄分です。鉄分の摂取量が不足したり出血による血液の喪失が起こったりすると「鉄欠乏性貧血」を招く可能性があります。
長期にわたる鉄欠乏により、以下のような症状が現れることが分かっています。
- 全身の倦怠感
- めまい・耳鳴り
- 動悸・息切れ
- 眼瞼結膜・顔面蒼白
- さじ状爪
- 舌炎・口角炎
- 氷を食べたがる(異食症)
特に女性では月経による鉄分の喪失のほか、妊娠中や授乳中には鉄分の需要が高まることにより鉄欠乏が起こりやすくなります。
また、胃腸に障害があったり胃を切除したりしている方は、鉄分の吸収が悪くなってしまいます。
鉄分の過剰摂取については、通常の食事によるものはほとんどないと考えられます。しかし、サプリメントや鉄強化食品などを過剰に摂取してしまうと、以下のような症状を引き起こす可能性が考えられます
- 胃腸障害
- 肝硬変
- 心不全
- 糖尿病
- 性機能障害(EDなど)
- 不妊症
- 甲状腺機能低下症
- 亜鉛の吸収阻害
一度に多量の鉄分を摂取することによって起こる症状が「急性鉄中毒」です。
急性鉄中毒の初期症状は、下痢や嘔吐、腹痛などですが、数日後には重度の低血圧や肝不全に陥り、最悪の場合は死に至る恐れもあります。
これは、幼児が鉄剤やサプリメントを誤飲してしまうことにより起こるケースも多いため、十分に注意することが必要です。
鉄分を含む食べ物
食品中の鉄分はヘム鉄と非ヘム鉄の2種類に分けられます。
肉や魚などの動物性食品に多く含まれている鉄分がヘム鉄、穀類や野菜などの植物性食品に多く含まれているのが非ヘム鉄です。
日本人は非ヘム鉄からの鉄分の摂取量が多いと言われています。
しかし、非ヘム鉄はヘム鉄よりも吸収率が低いため、効率よく鉄分を摂取するためにはヘム鉄を摂取する必要があるのです。ヘム鉄、非ヘム鉄を多く含む食品には、それぞれ以下のようなものがあります。[※9]
ヘム鉄を多く含む食品(100g当たりの含有量)
- 豚レバー(生)……13.0mg
- 鶏レバー(生)……9.0mg
- 牛レバー(生)……4.0mg
- かつお(生)………1.9mg
- めざし(生)………2.6mg
- まぐろ(きはだ・生)……2.0mg
- あさり(缶詰・水煮)……30.0mg
非ヘム鉄を多く含む食品(100g当たりの含有量)
- 調製豆乳………………1.2mg
- 糸引き納豆……………3.3mg
- 大豆(ゆで)…………2.2mg
- ほうれん草(生)……2.0mg
- 小松菜(生)…………2.8mg
- ひじき(ステンレス釜・ゆで)……0.3mg
- ひじき(鉄釜・ゆで)………………2.7mg
なお、体内に吸収されにくい非ヘム鉄も、>ビタミンCや動物性たんぱく質と一緒に摂取すると吸収率を上げることができます。
鉄分の働きを十分に発揮するためには、たんぱく質などの栄養素も欠かせません。そのためには、栄養バランスの取れた食事を心掛けることが重要です。
発見・研究の歴史
「鉄」といえば古くから利用されてきた金属として知られていますが、初めて鉄が作られたのは今からおよそ4000年ほど前であると言われています。
日本で鉄が利用されるようになったのは弥生時代半ば頃で、中国で作られた鉄斧の破片などが運び込まれ再利用されたのが始まりとされています。
その後、日本でも鉄が作られるようになりましたが、歴史上の製鉄を開始した時期についてはさまざまな説があるようです。
栄養素としての鉄分の歴史も古く、その当時も貧血と深い関係があったようです。
古代ギリシャでは、すでに「貧血には鉄を摂るのが効果的である」と考えられていたとされ、医学の父と呼ばれたヒポクラテスの書にも記述されています。
続く古代ローマ時代では、貧血予防のためにワインに鉄製の剣を浸して飲むということが行われていたようです。
その後、鉄分に対する医学的な関心が高まってくるのが19世紀。フランスの化学者ブサンゴーによって人間や動物の体内には、鉄分が必ず存在していることが明らかとなりました。
さらに20世紀に入り行われたのが、フランス人医師ヘイエムによる貧血患者の赤血球とヘモグロビンについての研究です。
この研究により、貧血患者に鉄分の多い食事を与えることで、貧血が改善されることが分かりました。
現在では、鉄分が人間にとって必要不可欠なミネラルであることは多くの人に知られています。
鉄分は血液にとって重要なだけでなく、他にもさまざまな役割を担っていることが考えられていることから、今後の研究にも期待がかかっていると言えるでしょう。
鉄分に関する研究情報
【1】月経中の女性が毎日鉄を補給することは、貧血と鉄欠乏の有病率を効果的に減らしヘモグロビンと鉄の貯蔵を増やすなどの効果をもたらします
【2】食事による鉄の摂取と体内の鉄の貯蔵が冠状動脈性心臓病のリスクと関連しています
【3】小学生の子供における毎日の鉄補給の効果:鉄分補給により、貧血のリスクが50%減少し、鉄欠乏のリスクが79%減少しました
成分
10秒解説
人体に欠かせないミネラルの一つが鉄です。赤血球のヘモグロビンなどに存在し、不足すると貧血を起こすことが知られていますが、脳の神経伝達とも深い関わりがあります。鉄を効率よく摂取するには、吸収率のよい「ヘム鉄」を摂取することがポイントです。